領域発足にあたり
東北大学・大学院理学研究科
教授 寺田 眞浩
本新学術領域では、地球の資源や環境に可能な限り配慮した持続可能な「モノづくり」の科学を発展させるため、近年、生体触媒、金属触媒に次ぐ、第三の触媒として大きな注目を集めている「有機分子触媒」をキーワードとする研究グループを組織し、総力を挙げた開発研究を推し進めることで「モノづくり」の新たな未来像の創出を目指しています。
本領域研究の基軸となる「有機分子触媒」、さらに広義で言う「反応触媒」の開発研究は、有機合成化学の中心的な研究課題の一つですが、産業界への実用化にも近いため、日本はもとより欧米、アジアを含む全世界の産と学の領域で活発に研究されています。その中で本領域の日本の研究水準はトップレベルにありますが、益々複雑・多様化する医薬品や機能性材料を地球環境のあらゆる点に配慮しながら大量かつ安全に効率よく生産するという社会のニーズに応えるには、革新的な触媒や反応の開発によって「モノづくり」の科学を飛躍的に発展させることが急務となっています。そのため「高い触媒活性」、「取り扱いの容易さ」、「立体化学制御能」など優れた特性を備えた有機分子触媒の設計開発はもとより、触媒現象の解明によって基質/触媒間の相互作用と活性化の本質を理解し、金属触媒では成しえない分子変換システムの開拓、あるいは新手法に基づく分子変換反応の開発が強く望まれています。これら有機分子触媒と触媒反応系を駆使した真に優れた分子変換に基づく実践的な合成プロセス開発への期待は高まる一方となっています。本領域研究では、これら開発研究を有機的・発展的に結びつけたスパイラルアップによって、「有機分子触媒」による分子変換という新たな学術領域を確立し、「モノづくり」の科学の発展に大きく貢献することを目標としています。