概要

委員会の設置目的

 有機合成化学は、医薬品、農薬からファインケミカル、さらに機能性材料等の様々な有用物質の合成法を提供することにより、高度文明社会を支えてきました。しかし、現状の学術・技術水準に甘んじることなく、今世紀の最大命題である「希少・枯渇資源の有効利用と再生可能資源の活用促進を原則とした元素戦略」、「持続可能な循環型社会の構築」に即した科学と技術を確立し、社会的要請に対応するための製造技術や生産システムに基づいた最先端の「モノづくり」(高付加価値の新機能性材料や医薬品の創製)は益々重要となってきています。こうした製造技術や生産システムに革新的な技術をもたらしてきたのが、1970年代から現在に至るまで活発に開発研究がなされている金属錯体触媒を用いた分子変換です。一方、2000年ごろから、光学活性な有機小分子が優れた不斉触媒能を有することが再認識され、「有機分子触媒」として一躍脚光を浴びるようになってきました。

 「希少・枯渇資源の有効利用と再生可能資源の活用促進を原則とした元素戦略」、「持続可能な循環型社会の構築」は今や喫緊の社会的要請となっています。これらに応え得る革新的な技術として「有機分子触媒」は、現在、世界各国で開発研究が急速に推し進められています。このように世界規模の熾烈な開発競争が繰り広げられる中、日本の優位性を継続的に維持するためには「有機分子触媒」をキーワードとする産学連携を目的とした組織を設立し、総力を挙げた開発研究を推し進めることでその力量を飛躍的に向上させる必要があります。産学協力研究委員会「分子性触媒による高度分子変換技術」第194委員会(以下、第194委員会)を組織することで日本が先導する「有機分子触媒」を基軸とした触媒系の開拓とともに「金属錯体触媒」「ハイブリッド触媒」など関連する「分子性触媒」による高度分子変換技術を確立し、技術創造立国・日本の「モノづくり」に新たな未来像を創出することを目標としています。

委員会の沿革

 第194委員会は、2015年度に設立した研究開発専門委員会「有機分子触媒による高度分子変換技術」をその前身としています。この研究開発専門委員会では、有機分子触媒研究において先導的立場で活躍している学術界委員として、大学より17名の教員を、また、産業界委員には、これまでファインケミカルの粋を尽くして小分子医薬品合成に当たってきた主力製薬メーカーならびに化学会社から17名を委員とし、さらに、産業界に対して有機分子触媒のスムーズな提供を促すことを目的として、市販試薬を販売している企業3社を選抜し、委員会組織を構成していました。また、運営を効果的に行うため、委員会のメンバーから数名幹事を選定し幹事会を設置し、この幹事会において、研究開発専門委員会における研究会企画、提言書策定等重要案件について立案し、事業の推進にあたってきました。

 第194委員会はこの研究開発専門委員会で培ってきた人的交流を通じた情報交換を基盤とし、さらなる発展形として設置しました。委員会名称に「有機分子触媒」に変えて「分子性触媒」を据えた意義は、これまでの有機分子触媒における最先端の研究成果を活かす上で、既存研究である「金属錯体触媒」「ハイブリッド触媒」など関連する触媒研究との融合をも視野に入れた産学連携が必須であるとの考えに基づきます。

委員会の役割

 第194委員会の性質上、最も重要な案件は、学術界側のシーズと産業界側のニーズのマッチングです。一方で、人的、時間的制約で企業に眠っているシーズを学術界側で育て、企業のニーズにマッチする形で還元することも、この委員会では重要な案件と位置付けています。産業界で必要とされている技術の芽を学術界の自由な環境下のもとで育むことを、新たな試みとして特にとり挙げます。そのため、委員会の主な役割は人的交流を通じた情報交換となりますが、これらを円滑に実施・促進するため、学術の最先端を紹介する講演会形式のシンポジウムを開催するとともに、併せて情報交換の場を設けます。産業界の将来を担う若手研究者の人材育成をするとともに、その活躍の場となる舞台を提供することを第194委員会では目指しています。

期待される成果

 「有機分子触媒」は,高価あるいは残留毒性が高い金属を使わずに有機反応を促進することから、触媒の取扱の容易さとともに、環境負荷の軽減やレアメタルの枯渇あるいは高騰といった社会的な問題に応えうる技術として元素戦略の観点からも注目を集め、急速に開発研究が推し進められています。その急速な発展の背景には以下に列記する「有機分子触媒」の特徴が大きく関わっています。

① 触媒分子が共有結合により構築されており、化学的に安定であるため回収再利用が容易

② 触媒分子が空気や水に対して安定なため、反応の際に特殊な技術が不要で手軽

③ 金属錯体触媒に比べ安価で、多くの場合、触媒の合成に特殊な実験技術や設備が不要

④ 有機分子触媒反応の組み合わせによる連続反応で複雑な化合物をワンポットで一挙に構築可能

⑤ 金属錯体触媒の場合は生成物への金属の混入が問題視されるが、有機分子触媒では不問

⑥ レアメタルの枯渇などの問題を回避するための元素戦略技術として有望

 これらの特徴を備えた「有機分子触媒」による分子変換を実現し、「希少・枯渇資源の有効利用と再生可能資源の活用促進を原則とした元素戦略」、「持続可能な循環型社会の構築」に応え得る「モノづくり」を現実のものとすることは、資源の乏しい我が国にとって火急の要件となっています。第194委員会ではこうした有機分子触媒の特徴を最大限に活かしつつ、これを基軸とした触媒系の開拓とともに「金属錯体触媒」「ハイブリッド触媒」など関連する「分子性触媒」による高度分子変換技術の確立を目標としています。第194委員会の活動により、学界と産業界の連携研究を円滑かつ効率よく進めていくことで、これらの技術の確立が加速されるものと期待されます。学術界の基礎研究から応用展開することで実践的なプロセス開発への道を切り開き、さらには実業化へと結び付けることで企業の収益として、最終的には国益につながる最先端技術の開拓を目指しています。

委員会運営内規

 第194委員会の運営内規は「こちら」をご覧ください。